東日本大震災 報道写真ギャラリー
「記憶」忘れてはいけないこと1、2、3 

東日本大震災 報道写真ギャラリー「記憶」忘れてはいけないこと1、2、3 東日本大震災 報道写真ギャラリー「記憶」忘れてはいけないこと1、2、3 東日本大震災 報道写真ギャラリー「記憶」忘れてはいけないこと1、2、3
■発行日本経済新聞社
■定価 1000円(税込み)

記憶の最初には1というのはなかったが、あまりの高い評判に第2作、第3作、近く4作も出版予定という。書店で一般に売られてないのでわしもしばらくはずかしながら目にできんかったが、しょっちゅう訪れるキャノンのプロサービスのサロンで目にし思わずため息がもれるほどしぶい出来に恐れいった。しかも定価1000円とは見えないしっとり落ち着いたマットな厚い紙に印刷にも凝って、これでほんまに1000円かいなと日経の出血ぶりに心配になるほどである。もちろん他の新聞社がだした震災写真集みたいな広告もなしでである。実は先日拙宅で3年に渡ってアルバイトをお願いしていた青年、澤井君が日経にカメラマンとして入社し、いよいよ結婚することになり、その披露宴に招待された時、同じテーブルで澤井君の上司の日経の写真部長の山田様、矢後様と同席した。その席上この「記憶」の話でもちきりなった。披露宴は新郎、澤井君も新婦も含めなごやかに済みなりより、わしもこれが生涯最後になるであろう結婚式出席の義務を果たした。その後市販されてない「記憶」3部作を拙宅までお送りくださった。震災発生後から1周年と全国紙から地元東北の各ブロック紙まであまたの写真集が緊急出版されたが、この記憶の写真の質が一番高い。表紙からして気仙沼の大川に沈んだ車のカットである。わしも大川でびっしり沈んだ大量の写真を真昼間偏光フィルターで空の反射を消して撮ったこともあるが、この表紙ではたった1両。しかも空と雲をあえて反射させたアングル。これが被災者以外でも想像を絶する津波の恐怖感をかもし出している。これを表紙にもってきたとは・・・背表紙は震災2日目の三陸鉄道を歩く母娘のロング、2作目表紙に写真再生のボランティア、3作目表紙に震災ペットとぜんぶ中望遠で手前に障害物、これを絞り調節でちょうどええ按配にぼかしている。とくに震災ペットの犬の目線はドンピシャ。新聞写真にありがちなより多くの情報を写しこもうとし散漫な写真になったりとか、より分かりやすくとストロボもろだきや陳腐なメッセージ性の写真も皆無。どれも完成度の高い作品ばかりで、ページをめくりながらうなり続けた。2部、3部となるにつれ、写真の性格や季節感も変わり、この写真集のサブタイトルにあるとおり、見る人を飽きさせない「忘れてはいけないこと」になっている。このクオリティーで1000円とは拙著写真集「再起」より500円も安い。背表紙に編集は日経の写真部とあるから、デザイナーを起用せず、撮ったカメラマン本人たち自らでレイアウトまでやったらしい。背表紙にはカメラマンの全クレジットのみならず、英訳、ハイヤーのドライバー、ヘリパイ、取材基地、生活基地設営まで取材、出版に関わった全氏名まで記されている。拙著ではドライバーはワシ自身やから30名以上のドライバーだけでもうらやましいが、せっかくのこんだけ質のたかいしかもリーズナブルなプライスの写真集、市販せんのはもったいない。ワシのどこで3年修行していた青年、いや新郎澤井君の名前もモチロン写真掲載されとるが、しばらく見んうちに腕あげたな。あれ以降ワシんとこアルバイトがぜんぜん居つかんようになってもうた。