小沢一郎 淋しき家族の肖像

小沢一郎 淋しき家族の肖像 小沢一郎 淋しき家族の肖像
■著者松田賢弥
■発行文藝春秋
■定価1600円(税別)

昨年政界に大激震が走った小沢一郎夫人の直筆の「絶縁状」。そこから見えてくる小沢一郎と家族の肖像を小沢の出生から現在にいたるまでを取材した集大成である。わしは著者の松田氏とじかに仕事したことないが、週刊文春編集部でよく顔をあわせていたぐらいであったが、このたび著書の表紙にわしの写真を使っていただいた。本書の中身については買った後読んでいただければ、じゅうぶん小沢一郎という政治家の本性が見えてくるが、わしは著者のように小沢一郎をずうとウオッチングしていたわけでない。ただ今となっては極めてめずらしい、小沢夫妻がそろって笑顔をまじえている所へ遭遇できたことで、本書の表紙にもなった。撮影したのは広島は江田島、海上自衛隊幹部候補生学校の卒業式であった。当時の小沢氏は自由党党首でもあり、そのとき卒業した長男でもある小沢候補生の両親として出席した。まさか本人は出席せんやろうという我々カメラマンの予想を大きく裏切り、夫妻そろっての出席に卒業式会場は一瞬どよめいたのを覚えている。普通政治家の長男というと、例をあげるまでもなく、ろくでもないアホ息子ばかり、たいがいコネで大手テレビ局か広告代理店に入った後、親父の秘書を数年やって、世襲の完成やが、当時野党から政権中枢にもどったとはいえ、大物政治家しかも後の政権与党の代表までなった小沢氏の長男が幹部とはいえ海上自衛官を志し、ちゃんと卒業したのである。特に長男は防衛大出身やなしに早大からの入学である。当時の江田島の競争率が18倍、入学には父親の威光が影響したとも思えんが、入学してからは、はしの持ち方、シーツのたたみ方から遠泳までいくら大物政治家の跡取りといえども、他の候補生と同じようにしごかれまくったはずである。しかもこの後6月間にも及ぶ遠洋航海も果たし、3等海尉として配属されたのである。当時はそんな小沢氏を見直したが、その後小沢氏が仕切る民主党が海上自衛隊によるインド洋の補給活動にインネンをつけ、中止にまでおいこんでまうに至って、そりゃあ部隊では針のむしろやったと容易に想像がつく。まあそれが理由かどうかわからんが、小沢3尉は2尉に昇進したのち除隊して、父小沢氏と絶縁状態という。本書には当時の政治状況から民主党以前の小沢氏が文藝春秋誌上で発表した「憲法改正試案」や故小渕首相に対する揺さぶり、その直後の小渕首相の死なんかも影響したかもと推察して、卒業式のわしの写真の解説もしていただいている。しかしあの時の小沢氏に対するわしの印象は普通の父母、特に和子夫人は真新しい3等海尉の制服に身を包み、今まで育てた長男から敬礼まで受け、練習艦に向かう様にコンパクトカメラを手に本当に誇らしく、うれしそうであった。小沢氏も同様、他の候補生の父兄とかわらず、あのふてぶさしさも微塵もなく、目を細めて長男の晴れ姿を見送っていた。が、結局夫妻が公式の場で仲睦ましい様子を見せたのはこれがおそらく最後になるという。表紙にわしの写真を使用しただけでも装丁担当された石崎健太郎氏のセンスはうかがえるが、すごいのは表紙、裏表紙の裏である。緑の紙面に和子夫人のボールペンで書かれた問題の絶縁状がびっしりなのである。これで直筆やと説得力もじゅうぶんである。