師・野村秋介

師・野村秋介
■著者蜷川正大
■発行 展転社
■定価 2,000円(税別)

先日の10月18日四谷で開催された群青忌で販売されていた本書を主催者の21世紀書院の隠岐氏から手渡された。表紙写真は私も撮った野村秋介が赤坂の事務所で署をしたためているモノクロカット。群青忌でも野村の著書でもいちばん野村の自然体が表現されていると使用されているカットである。モノクロプリントが当時得意だったわしの作品と当分思い込んでいた。がこの作品はフィリピンで野村に助け出された石川重弘カメラマンの手による。確かに野村をゆっくり静かに撮れる機会なので、ついつい野村を撮ったことのあるカメラマンが自らの作品と勘違いするのである。とはいえ本書のなかにはまぎれもなくこのわしの手によるカットも少なからず掲載されているだけでなく、わし自身が野村と著者にはさまれマドリッドの闘牛場の観覧席にすわっているカットまで掲載されている。これ誰が撮られたんやろ?93年8月9日という日付が写しこまれているので、コンパクトカメラで撮られている。おそらくこの中に写ってない古澤氏が撮られたんやないやろかと推察する。まだ前髪も黒くやせているのは年相応やが、横の野村が闘牛を観るのはこれが最初で最後のようなきつい表情に対し、なんや笑っているように見えるというより、左手を左耳にあて携帯電話かけているように見える。もちろん93年当時はヨーロッパでは携帯電話は市民にほとんど渡ってなく、日本国内でも持ってるだけでステイタスシンボル、ましてや海外でローミングなんぞ絶対無理!やからわしはいったい何しとんやろ?帯には本書の巻末で解説されている作家 山平重樹氏の後書きの一説、山平氏とも群青忌のあとの懇親会で久しぶりにお目にかかれた。あのマドリッドの闘牛場での野村の不愉快な表情はいまも鮮明に覚えている。その後のモロッコでは群青忌の案内状にもなっていた霞がかったビーチで撮ったカットやらいいのがたくさん撮れたと自負しているが、この闘牛場で残っている作品は全くといっていいほどない。闘牛とはマタドールと牛が一対一で文字通り命がけで戦うものとおもっていたらそうではなかったことへの失望であった。もっともわしも知らずけっこうえぐいもんやなという印象と野村も指摘しているように日本人が好きなロブスターの活け作りを残酷やから条例で禁止する資格がヨーロッパ人には絶対ないという確信であった。まさに野村の言葉「拍手を送るなら戦った人間より殺されていく牛に送る」が日本人にはその通りであった。本書には朝日新聞での最後の瞬間までも。