正論 11月号

正論 11月号
■発行産経新聞社
■価格940円(税込み)

表紙にもあるようにこの11月号で正論は45周年を迎えるという。おめでとうございます。出版して1年持たずに休刊、廃刊に追い込まれる雑誌がぎょうさんあるっちゅうに、45周年やで。そんな長寿月刊誌に連載持てて光栄の限りや。というわけで、今回の連載は台風21号の京阪神襲来について述べさせてもろた。ホンマ関西は「何やっとんど?」(何やってはるんでっかの播州弁)いやあ天災は時と所を選ばん。被害にあった方々はホンマ御気の毒である。それでもちょっと知恵働かせ、経験に耳傾けとったら、防げた被害があったやろ。関西空港のことや。わしもしっかり閉じ込められたで。あの蒸しあっついなか、大勢の外国人、とくに中国人観光客といっしょに。わしは台風関西上陸したとき、実家明石におった。そりゃあむちゃくちゃ暴風雨や。わしが10歳のとき亡父が建てた古いふっるい家や。もう屋根飛んだとおもうくらいや。せやけど、おとなり神戸の摩耶埠頭や六甲アイランドみたいにコンテナや車がころがるほどやなかった。ホンマ神戸と大阪の被害にあった皆様、あれはほんまにおそろしかったでんな。ほれで、その日からあの関空と岸和田結んどる橋にタンカーぶつかって、関空で5000人以上が閉じ込められ孤立したと知ったが、橋はいつ通れるかどうかさっぱり予想もできん。鉄道も車両も徒歩でさえ。唯一の脱出ルートが台風直撃翌日から再開した関空と神戸空港を高速ボートで結んだベイ・シャトルだけ。しかし関空から神戸空港までの一方通行だけ。インターネットでも時刻表上ではすべて欠航扱い。しかし、行きは被害観光客100人定員いっぱい乗せてきて、関空帰るというか行くときはカラということや。いや、一回100人しか乗れんベイ・シャトルで5000人の孤立した観光客脱出するには単純計算で50回往復せんといかん。鉄道橋にはタンカー直接ぶつかってそれこそいつ直るかわからんが、車両のほうはちょっとずつやったら車や徒歩で渡れるようになるかもしれんが、とりあえずベイ・シャトルは30分おきで昼間だけやから、5000人全員脱出するには2日以上かかる計算や。その間の孤立した観光客や空港職員の飲料水、食料も必要になってくる。というわけで関空行くだけやったらベイ・シャトル乗ればいけるはずやとふみ、かって知ったる神戸空港にむかったら案の定行くだけなら乗せてくれるという。ただしいつ帰ってこれるかはベイ・シャトルの方々ですらわからん、とにかく5000人が行列作って、その長蛇の列は遅々として進んでないようやという。そんなもん気にしとったらカメラマンなんかやっとるかえ、とお茶のペットボトル2本だけカメラバッグに詰め込んで、関西のテレビ局と当分脱出できそうにない空港職員や航空会社職員用の食料といっしょにベイ・シャトルに飛び乗った。中は当然ガラガラ、しかも皆無口や。関空は熱かった。ただでさえ台風一過で蒸し暑いうえ、関空運営しとる会社経営者らの無能のせいで、全館停電や。福島第一原発事故の教訓は関空運営会社にはさっぱり生かされんかったのである。もう華やかな国際空港の面影もない薄暗いわ、あっついわで、外で汗だくで行列待ってるほうがましやった。ところで空港ターミナルに観光客や職員は閉じ込められとったんやが、そこから唯一の陸路の脱出路が見えんのである。というわけでわしはタンカー衝突現場の撮影もあったんで、ターミナルからもはや交通機関はないので徒歩で橋が見えるポイントに向かおうとしたが、これがなかなか・・・国際空港って自由に歩けるとこやないんや。さらにテロで狙われるからそこらじゅう監視カメラってそのときはアホの空港運営会社のおかげで、島内全面停電、滑走路冠水、飛行機飛び上がるどころか着陸もできんし、監視カメラが動いてるわけもなかったが、カメラに写らんから立ち入り禁止のとこにしのびこんでええっちゅうもにゃないやろ。たとえ報道取材でも、そこは順法精神旺盛な不肖・宮嶋、ちゃんと複雑にからみあう歩道さまよい、なんとか岸和田とを結ぶ橋が島側から見えるポイントにたどりついた。そこ岸和田側にある遊園地やタンカーとの衝突現場もばっちし見えた、その上ピーカンの順光。もひとつそこにおるんはワシだけ。なんとかこれで取材はでけた。そこでふと背後見たら、ベイ・シャトルの波止場が見えた。そや、波止場からターミナルまでは神戸に脱出する観光客を乗せてきたバスで運ばれた。その最中に橋が見えたからターミナルから30分もあせだくでやってきたのである。波止場には30分ごとにベイ・シャトルが到着するんやが、それに乗って脱出するはずの観光客がターミナルから来ないのである。ベイ・シャトルは30分ごとに神戸空港からやってくるのに、それが着く波止場はひとつ。せやからベイ・シャトルはカラで神戸にかえっていくのである。これはターミナルから波止場までの移動手段をバスだけやから。関空には当然でっかい駐車場がある。そこに車停めてた観光客の送迎しとった方々や職員がバスが車両橋渡り始めたから一般車両も岸和田側に帰れるはずやと、駐車場をでて橋に殺到して波止場行くバスも立ち往生しとったからである。空港運営会社にちょっとでも知恵あったら、歩ける方は30分熱いなかですが、歩きましょうとワシみたいに歩いたらベイ・シャトルは神戸にカラで帰ることはなかったのである。わしも孤立した観光客押しのけてベイ・シャトル乗り込むほどどあつかましくないで。映画「タイタニック」見るまでもなきゅ、そういうやつら実に見苦しい。かくして何本もカラで帰っていくベイ・シャトルを見送ったあとたった一人の乗客として神戸空港に帰った。その翌日帰京し、その夜に北海道であんな大地震が起こるなんて予想するすべもなく。